契約前に要確認！システム開発を外注する際の契約形態とその違いを徹底解説

システム開発における契約は、企業の業務に必要な社内システムの構築や、顧客向けのクラウドサービスの開発など、様々な場面で登場します。

システム開発の契約の主な種類

システム開発における契約には、大きく分けて3つの種類があります。それぞれの特徴を理解して、プロジェクトの性質に応じて適切な契約形態を選択することが大切です。

請負契約

請負契約は、成果物の完成を約束する契約形態で、「仕事を完成することを約束する」契約のことです。

報酬は、原則として成果物がある場合は納品と同時に、成果物がない場合は仕事が完成した後に支払われます。

発注者にとっては最も安心できる契約形態と言えるでしょう。なぜなら、システムが完成しなければ報酬を支払う必要がないからです。

この契約では、開発業者に「必ず完成させる」という責任を負わせることができます。開発途中で問題が発生したとしても、業者側が最後まで責任を持って完成させる義務を課すことが可能です。

請負契約にはメリットとデメリットの両面があります。

発注者にとって成果物の完成が保証される一方で、その分契約金額は高めになる傾向があります。完成保証というメリットに対するコストとして理解しておく必要があります。

請負契約のメリット	請負契約のデメリット
成果物の完成が保証される	契約金額が高めに設定される
発注者のリスクが低い	仕様変更時の追加費用が発生しやすい
責任の所在が明確	柔軟な開発手法に向かない

上記の特徴から、請負契約は仕様が明確で変更の少ないプロジェクトに適していることがわかります。

準委任契約

準委任契約は、開発作業そのものを依頼する契約形態で、「非法律行為の遂行」を約束する契約のことです。

請負契約とは異なり、完成品の納入を約束するものではありません。代わりに、一定期間にわたって開発作業を行うことを約束します。

この契約形態のメリットは、柔軟性が高いことです。開発途中で仕様変更があっても比較的対応しやすく、アジャイル開発のような手法に適しています。

アジャイル開発は、短い反復を重ねながら優先度の高い機能から実装を進める手法です。このような開発手法では、途中で要件が変更されることが前提となっているため、準委任契約が適しています。

ただし、必ずしも完成品が得られるとは限らないというリスクがあります。

作業時間に対して報酬を支払うため、予算管理も慎重に行う必要があります。

準委任契約のメリット	準委任契約のデメリット
仕様変更に柔軟に対応できる	完成品が保証されない
アジャイル開発に適している	予算管理が困難
段階的な開発が可能	成果物の品質にばらつきがある

これらの特徴から、準委任契約は要件が変動しやすいプロジェクトや探索的な開発に適していることがわかります。

派遣契約

派遣契約は、開発業者のエンジニアを自社に派遣してもらう契約形態です。

この場合、派遣されたエンジニアは発注者の指揮命令の下で作業を行います。

社内のチームの一員として開発に参加してもらうイメージで、下記のような特徴があります。

• 発注者が直接指示を出せる
• 社内のノウハウを蓄積できる
• 派遣エンジニアと密接に連携できる
• プロジェクトの進捗を直接管理できる

ただし、派遣契約を選択する場合は、労働者派遣法などの法規制に適合した契約内容にする必要があります。違法な契約とならないよう、法務部門や専門家への相談を検討しましょう。

派遣契約を検討する際は、法的な要件を十分に理解しておくことが重要です。

派遣契約を選択する場合は、法務部門や専門家と連携して適法性を確保することが重要です。

また、契約期間満了時の対応（直接雇用の申し込み義務など）についても事前に検討しておく必要があります。

契約形態の選び方

どの契約形態を選ぶかは、プロジェクトの性質や開発手法によって決まります。

一括契約と多段階契約

システム開発の契約には、システムの設計から納品までを包括的に行う「一括契約」と、工程ごとに契約を締結する「多段階契約」があります。

一括契約は、プロジェクト全体を一つの契約でまとめる方式です。

開発の範囲や要件が明確で変更が少ない場合は一括契約が適しています。

一方多段階契約は、開発の進行に伴って仕様や要件が変化しやすい（不確定要素が多い）場合や柔軟性が求められる場合に適しています。

システム開発はゼロから成果物を作る仕事なので、完成までに仕様が変更されることも多く、契約時に正確な工数や期間、費用などを適切に見積もることは容易ではありません。

そのため、多段階契約方式を採用することで、納期や費用についてのトラブルを防ぐことができます。

開発手法による使い分け

経産省のモデル契約においては、システム開発の各フェーズ（段階）と契約類型について整理されています。

開発フェーズ	推奨される契約形態
企画・要件定義	準委任契約
システム設計	準委任・請負
プログラミング	請負契約
テスト	請負契約
運用・保守	準委任・請負

このように、開発の各段階で適切な契約形態を使い分けることが重要です。

要件が不確定な上流工程では準委任契約を、具体的な成果物を作成する工程では請負契約を選択するのが一般的です。

基本契約書と個別契約書

システム開発の契約では、基本契約書と個別契約書を分けて作成するケースが多く見られます。

これにより、共通事項と個別事項を効率的に管理できます。

基本契約書では、損害賠償や解除条項、代金の支払方法や裁判管轄など、取引全体に共通する事項を規定します。

個別契約書には、フェーズごとの委託範囲や報酬額など、プロジェクト固有の条件を詳細に盛り込みます。

システム開発の契約で注意すべきポイント

システム開発において契約を結ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。これらを見落とすと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。

システムの仕様を明確にする

最も重要なのは、開発するシステムの仕様を明確にすることです。

「どのようなものか」「どのような仕様か」「いつまでにどのような状態で納品するのか」を明確にします。可能であれば、要件が詳しく載っている仕様書の内容を契約書に盛り込むか、添付しましょう。

これらの点を曖昧にしたまま契約を結ぶと、完成したシステムが期待していたものと違う可能性があります。

仕様書は可能な限り詳細に作成し、双方が同じ認識を持てるようにしましょう。

• システムの目的と概要
• 機能要件（何ができるか）
• 非機能要件（性能、セキュリティなど）
• 操作画面のイメージ図
• データベース設計
• 外部システムとの連携方法
• 動作環境・推奨環境

これらの項目を詳細に記載することで、リスクを抑え、円滑な遂行につながります。

納期と進捗管理を徹底する

納期の設定も契約において重要な要素です。

ただし、単に「いつまでに完成させる」というだけでは不十分です。

開発プロセスと納期を明記し、プロジェクトの進行状況を常に把握し、遅延や逸脱を予防することが重要です。開発の各工程ごとに中間的な納期を設定し、進捗を管理できるようにしておきましょう。

このような工程管理により、プロジェクトの進捗を適切に把握し、遅延リスクを早期に発見できます。

費用と支払い条件を詳細に定める

開発費用の内訳と支払い条件も契約書に明記されている必要があります。

システム開発の費用を支払うタイミングは、システム完成もしくは労務完了時の2種類に分けられます。

単に総額だけを記載するのではなく、何にどれくらいの費用がかかるのかを詳細に示してもらいましょう。

• 設計費用
• プログラミング費用
• テスト費用
• 保守・サポート費用

このように費用を分けて記載することで、仕様変更があった場合にも追加費用の算定がしやすくなります。

このような段階的な支払いスケジュールにより、プロジェクトの進捗に応じた適切な資金管理が可能になります。

知的財産権の帰属を明確にする

開発されたシステムの知的財産権がどちらに帰属するかも重要なポイントです。契約で特に定めなかった場合、開発されたシステムの著作権は開発業者に帰属してしまいます。

発注者が著作権を取得したい場合は、契約書に「開発されたシステムの著作権は発注者に移転する」旨を明記する必要があります。

第三者の知的財産権を侵害しないよう、使用するソフトウェアのライセンス条件も確認しておきましょう。

• 開発されたシステムの著作権の帰属先
• 既存ライブラリのライセンス条件
• 第三者ソフトウェアの使用許諾範囲
• 改変・複製・再配布の権利
• ソースコードの開示義務の有無

これらの権利関係を事前に明確にしておくことで、安心してシステム開発を進めることができます。

契約トラブルを防ぐための対策

システム開発の契約では、様々なトラブルが発生する可能性があります。事前に対策を講じることで、これらのリスクを最小限に抑えることができます。

複数業者から見積もりを取得する

契約前には、複数の開発業者から見積もりを取得することをおすすめします。

単に価格を比較するだけでなく、提案内容や開発体制、過去の実績なども総合的に判断しましょう。

極端に安い見積もりには注意が必要です。後から追加費用を請求されるケースや、品質が期待に達しないケースがあります。

• 費用の内訳が明確に記載されているか
• 開発期間が現実的に設定されているか
• 過去の同規模プロジェクトの実績があるか
• 開発チームの技術力とスキルは十分か
• アフターサポートの内容は充実しているか
• コミュニケーション体制は整っているか

上記のことを見極めながら進めましょう。

また、RFP（提案依頼書）を作成して複数業者に同じ条件で提案してもらうことで、より公平な比較が可能になります。

評価項目と重み付けを事前に決めておくと、客観的な選定ができます。

定期的な進捗確認を実施する

開発期間中は、定期的に進捗を確認することが重要です。週次や月次でミーティングを設定し、以下の点を確認しましょう。

このような定期的な確認により、問題を早期に発見し、適切な対応を取ることができます。

また、開発業者とのコミュニケーションを密にすることで、認識のずれを防ぐことにもつながります。

仕様変更の管理体制を構築する

開発途中で仕様変更が発生することは珍しくありません。

重要なのは、変更をどのように管理するかの仕組みを事前に作っておくことです。

変更が発生した場合には、必ず書面で変更内容を確認し、費用や納期への影響を明確にしましょう。

口約束だけで変更を進めると、後々トラブルの原因になります。

失敗事例から学ぶ注意点

正式契約書なしで作業を開始してしまう

正式契約書を締結していないのに作業を開始してしまうことが多い、という問題があります。この問題は、システム開発業界で最も頻繁に発生するトラブルの一つです。

プロジェクトの緊急性や、発注者と開発業者の信頼関係を理由に、「とりあえず始めて、契約書は後で」という進め方をしてしまうケースが後を絶ちません。

口約束での開発着手は絶対に避けましょう。下記のようなトラブルが起こる可能性が高いです。

• 責任範囲が不明確になる
• 追加費用の根拠が曖昧になる
• 納期の遅延時の対応が困難になる
• 品質基準の合意がない状態になる

キックオフ前後の口頭合意だけでベンダがプログラムを書き始め、あとから費用清算を巡る紛争に発展するケースもあります。

特に、既存取引先との継続案件や、緊急性の高いシステム障害対応などで発生しやすい傾向があります。文書化された発注が無ければ、着手時点で責任範囲も支払条件も不明確になります。

したがって、有償作業へ移る前に「対象業務・成果物・金額・納期」を明文化した個別契約を結びましょう。

口約束によるトラブル事例

実際の訴訟事例では、開発業者が作業を開始した時点での合意内容が争点となることが多く、立証が困難になるケースが頻発しています。

緊急時であっても、最低限の合意事項を文書化することが重要です。

作業に適さない契約形態を選択してしまう

作業にあっていない契約形態になっていることが多い、という問題も指摘されています。この問題は、システム開発の特性を理解していない発注者や、リスクを適切に評価できていない開発業者によって引き起こされます。

仕様未確定なのに一括請負で予算を確定したため、要件定義の途中で工数が膨張し訴訟になった例も紹介されています。

このような事例では、当初の見積もりから数倍の費用が発生し、プロジェクト自体が頓挫するケースも少なくありません。

• 予算確保の都合で一括請負を強要
• 開発業者の営業戦略で請負契約を提案
• 発注者の法務部門が準委任契約を理解していない
• 過去の成功事例を異なる案件に適用

成果物が見えない段階では請負より準委任を使い、要件確定後にフェーズごとの請負へ切り替える二段階方式が有効です。

契約形態の誤選択によるリスクについて詳しく説明します。

要件定義段階での請負契約では以下のようなリスクが発生します：

• 仕様変更のたびに追加費用が発生
• 開発業者が仕様確定を急ぐ傾向
• 十分な検討時間が確保できない
• 後工程での大幅な修正が必要になる

実装段階での準委任契約では以下のようなリスクが生じます：

• 完成品が保証されない
• 予算管理が困難になる
• 品質基準の合意が曖昧
• 納期の管理が難しい

実際の現場では、ハイブリッド型契約を採用するケースも増えています。

要件定義は準委任、設計・開発は請負、運用・保守は再び準委任といった形で、各フェーズの特性に応じて最適な契約形態を組み合わせる手法です。

コミュニケーション不足によるトラブル

システム開発のプロジェクトでは、発注者と開発業者間のコミュニケーション不足が多くのトラブルの原因となっています。

• 定期的な進捗報告会の実施
• 課題・リスクの早期共有
• 専任の窓口担当者の設置
• 議事録の作成と共有
• エスカレーション手順の明確化

これらの要素を組み合わせることで、プロジェクトの透明性と成功率を大幅に向上させることができます。

追加費用が発生して予算がオーバーしてしまう

当初の見積もりから大幅に予算が超過するケースも頻発しています。

経済産業省の事例集でも、予算が当初の2倍以上に膨らんだプロジェクトが数多く報告されており、中には開発途中でプロジェクトが中止となり、投資した費用が全て無駄になってしまった深刻な事例もあります。

特に、要件定義が不十分なまま開発を開始した案件では、後工程での大幅な仕様変更により予算超過が避けられない状況に陥ることが多く見られます。

これらの予防策を講じることで、予算超過のリスクを大幅に軽減できます。

特に変更管理プロセスの徹底は、追加費用の発生を事前に把握し、承認フローを明確にすることで、予想外の費用増加を防ぐ効果的な手段となります。まとめ

システム開発の契約は、成功するプロジェクトの基盤となる重要な要素です。適切な契約形態の選択、詳細な仕様の定義、明確な責任範囲の設定など、多くの要素を慎重に検討する必要があります。

契約書の作成には時間がかかるかもしれませんが、後々のトラブルを防ぐためには欠かせない投資です。

また、情報処理推進機構が作成した雛形なども活用して、適切な契約書を締結しておくことをおすすめします。

不明な点があれば、法律の専門家や経験豊富なコンサルタントに相談することも大切です。

適切な契約を結ぶことで、安心してシステム開発プロジェクトを進められるでしょう。

システム開発を成功させたい方へ。私たちが伴走します

システム開発は、単に技術力があるだけでなく、契約内容やコミュニケーション体制がしっかりしている開発会社を選ぶことが、プロジェクト成功のカギとなります。

株式会社アレグビットは、要件定義から契約形態のご相談まで、お客様にとって最適な形で進められるよう丁寧にサポートいたします。

「契約形態で迷っている」「信頼できる開発パートナーを探している」という方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

貴社のビジネスに最適なシステム開発をご提案します！